雇用調整助成金(コロナ後)の最新動向 ― 制度内容・申請方法
雇用調整助成金とは
経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者の雇用の維持を図るために実施する休業・教育訓練・出向に対して、その費用の一部を助成する制度です。
通常制度の概要
対象者: 雇用保険適用事業主。受給要件: 最近3ヶ月間の売上高または生産量等が前年同期比10%以上(中小)または15%以上(大企業)減少していること 等。助成額: 休業手当相当額の2/3(中小)または1/2(大企業)。支給限度日数: 1年あたり100日(3年間で150日)。
支給の前提としては、経済上の理由に基づく措置であること(従業員の私的理由や無断欠勤への対応は対象にならない)、雇用維持が前提であること(休業を実施した対象労働者を解雇すると支給に影響する場合がある)、雇用保険の適用事業所であること(対象労働者は原則、被保険者)が問われます。要件や支給率は経済情勢に応じて見直されることがあるため、手続きの前に最新の要綱と様式を入手してください。
申請の流れ
- 都道府県労働局・ハローワークに相談
- 休業等の実施前に計画届を提出
- 労使間の協定を締結
- 休業・教育訓練・出向を実施
- 支給申請(支給対象期間終了後2ヶ月以内)
- 審査・支給決定
なお、労使協定の締結と計画届の提出はいずれも実施前が要件で、片方だけでは不十分です。開始予定日から逆算して2つの期日を管理しましょう。
教育訓練・出向の場合の加算
教育訓練加算: 1人1日あたり1,200円(加算後)。出向: 出向元・出向先双方の事業主に対する助成あり。
コロナ後の制度運用の変遷
雇用調整助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響で特例が繰り返し拡張された経緯を持つ制度です。感染症初期には、休業の種別を問わず広範な対象に助成する特例が複数回にわたって設けられ、売上減少の要件も緩和されました。その後、社会活動の回復に伴って特例措置は段階的に縮小・終了し、現在は通常の制度に基づく運用に戻る方向で整えられてきています。
この経緯から、制度の内容は「過去に申請した時の条件」とは大きく異なる可能性があります。助成率や支給要件は年度や時期ごとの告示・通知で定められるため、申請を検討する事業者は必ず時点の最新の案内を厚生労働省の公式サイトや管轄の都道府県労働局で確認してください。過去の特例時の記憶に基づいて申請準備を進めると、要件のすれ違いが起きやすくなります。
通常制度に戻った現在の考え方を整理すると、休業の対象は「社会情勢や経済変動による事業活動の縮小に伴う休業」であり、計画届の提出や労使協定の締結といった手順が一層重視されるようになっています。かつて特例で省略されていた手続きが、現在では必須となっている場合もあるため、過去に申請した経験のある事業所は手順の追加部分に注意が必要です。必要書類の組み合わせは、計画届の様式や支給申請書の記入要領に沿って、労働局で事前確認するのが最も確実です。
また、経済変動による雇用維持の必要性は感染症以外の要因でも生じます。原材料価格の高騰や需要変動で一時的な操業縮小が必要になった場合も、通常制度の要件を満たせば助成の対象になり得ます。「コロナ特例が終わったから使えない」という理解ではなく、現在の通常制度の要件を確認する姿勢が大切です。
年度ごとの更新を確認する習慣を
助成金関係の制度は年度替わり(4月)に支給要件や申請様式が更新されることがあります。人事労務を担当する方は、年度初めに厚生労働省の助成金関係ページで変更点をチェックしておくと、準備のやり直しを防げます。
申請書類と労使協定の整備ポイント
支給申請の段階で不備になりやすいのが、休業手当の計算と労使協定の整備です。準備段階で押さえておきたい点を整理します。
- 労使協定書の整備: 休業手当を平均賃金の6割で支給する場合(相殺して相当額とする場合を含む)には、事業場の過半数労働組合等との書面協定が必要です。協定書に実施対象・期間・手当の額を明記しておきましょう。協定の締結日が実施日より後になると、その期間が助成対象外になる恐れがある点にも注意してください。
- 休業手当の計算根拠の保存: 1人1日ごとの休業手当の計算に用いた賃金データ(賃金台帳、タイムカード、平均賃金の算定基礎)を揃えておくことが求められます。後からの訂正は説明を要するため、日頃の記録管理が重要です。
- 計画届のタイミング: 通常制度では、休業などの実施前に計画届の提出が必要です。突然の操業短縮になっても、提出要件を満たせるかどうかを労働局に相談してください。提出は対象事業所ごとに行います。
- 支給対象期間の整理: 支給対象期間は暦日単位ではなく、休業を実施した日ごとに整理します。対象期間終了後2か月以内の支給申請が原則となるため、申請期限を逆算して書類をまとめましょう。
- 教育訓練・出向の記録: 加算や出向の助成を利用する場合は、訓練の実施記録や出向協定の内容まで含めて整備が必要です。
- 主な必要書類: 支給申請では、事業計画書、労使協定書、対象労働者の雇用保険被保険者資格確認、賃金支給台帳・休業手当の計算資料などが必要です。雇用保険の適用事業所番号がわかる資料も手元に整理しておきましょう。
支給決定までの所要期間の目安も把握しておきましょう。申請書類の内容が揃っていれば、支給申請から支給決定まで1か月〜2か月程度で進むことが多いのですが、平均賃金の算定基礎に疑問点がある場合や、協定書の内容に不備がある場合は照会に時間がかかります。初めて申請する事業所は、計画届の段階から労働局の担当者に書類のチェックを受けると、後段のやり直しを大幅に減らせます。
助成金は不正受給への監査が厳格化している分野でもあります。申請内容と実際の勤務記録・賃金支払い記録の整合性は、受給後も保存・確認の対象になり得ます。受給資格者証や助成金の関係帳簿は、定められた保存期間を守って管理してください。
計画届の提出は実施前が原則
雇用調整助成金は、休業などの実施前に計画届を提出することが通常の要件です。実施後の追手続きでは助成を受けられない場合があります。操業短縮の見込みが立った時点で、まず労働局に連絡しましょう。
対象者・対象期間の考え方
助成の対象となる休業は、雇用保険被保険者に対する事業主の都合による休業です。対象期間(助成計算の基準期間)は事業所単位で設定し、計画届に記載します。対象労働者の範囲から除外される者(日雇雇い入れ期間が短い者など)にも注意が必要です。
不支給・減額になりやすい事例と対処
手続きの順序を守っていても、実績の記録が不十分だと支給額が減ったり、不支給になったりします。申請の段階で指摘を受けやすい事例と対処を整理します。
- 休業手当の支払い記録がない: 支給の前提となる支払い事実を、賃金台帳と休業手当の計算資料で示す
- 計画届の記載と実績の不一致: 対象労働者の範囲や実施方法を変えるときは、事前に変更手続きの扱いを確認する
- 対象外の労働者を含めて申請: 適用除外や勤務実績の要件に当てはまる者を、事前にふるい分けておく
- 他の助成金との重複: 同じ休業について複数の制度を併用する場合、調整の扱いを窓口で確認する
- 減少率の判定単位・比較期間の誤り: 受給要件となる売上高・生産量の減少率は、事業所単位・期間単位の定義を要綱で確認してから計算する
- 休業日の勤務実態の記録漏れ: 呼び出し出勤や一部出勤があった日は、その実態と理由を記録し、休業実績と突合できるようにしておく
- 教育訓練の実施方法が要件とずれている: 訓練の内容・時間・実施方法が要綱の加算要件に沿っているか、実施前に窓口で確認する
支給申請で特に説明を求められやすいのが、休業手当の算定方法です。平均賃金の算定根拠と支払いの記録をそろえておけば、申請のやり直しを避けられます。判断に迷う実績があったときは、申請の前に窓口へ確認し、回答の内容を記録しておきましょう。
休業手当の未払いは支給の土台を崩す
労働者に休業手当を支払っていない実績では、助成の前提を満たしません。資金繰りが厳しい場合でも、支払いの方法と期日を労使で決めて記録に残すことが先決です。
休業・教育訓練・出向それぞれの記録のポイント
助成の対象となる措置は3種類あり、実績として示す記録もそれぞれ異なります。実施前に記録の残し方を決めておくと、申請の段階で整理がしやすくなります。
- 休業: 対象日と対象者の範囲、休業手当の算定根拠を、賃金台帳や出勤簿と一致した形で残す
- 教育訓練: 訓練の内容・日程・受講者の記録に加え、訓練が雇用の維持につながる考え方を計画に反映させる
- 出向: 出向の目的・期間・対象者を明確にし、労使間の協定や関係書類をそろえておく
いずれの措置でも、対象者の選定理由と実施の記録がそろっていると、支給申請での説明がしやすくなります。実施方法を途中で変える場合には、その変更の扱いを窓口で確認したうえで、記録の残し方も見直しておきましょう。実績の記録は、次回の申請にそのまま使える形で整理しておくと、二度目以降の準備が軽くなります。
支給申請の書類では、計画届に記載した内容と実績の対応関係を示すことが説明の中心になります。実施した措置が計画の各項目に対応していること、対象労働者の範囲と実施日数が計画の範囲内にあることを、記録で示せるように整理しておきましょう。対象者の範囲や実施方法を途中で変えた場合には、その理由と経過を説明できる資料を用意しておくと減額や不支給のリスクを抑えられます。添付書類は様式ごとに指定が異なるため、申請の前に窓口の案内で確認するのが確実です。記入例が用意されている様式では、それに沿って書くことで修正の手戻りが減ります。提出前には、計画と実績の数字の整合を一度点検してから提出しましょう。
よくある質問
Q. 雇用保険に未加入の従業員がいる場合、対象になりますか。
A. 助成金は雇用保険の適用事業で、対象労働者が雇用保険の被保険者であることが前提になります。加入漏れがある場合は、まず適用・加入の手続きを整えることが先です。雇用保険の加入手続きは、事業所所在地を管轄する都道府県労働局やハローワークで案内されています。
Q. 有給休暇を付与する形の休業でも助成の対象になりますか。
A. 有給休暇として処理した場合は、雇用調整助成金の対象となる「休業」として扱われないのが通常です。一方、有給休暇と教育訓練を組み合わせた取り組みについては、制度で位置づけられた取り扱いがある場合があります。具体的な組み合わせは、計画届の提出前に労働局へ確認してください。
Q. 休業手当を全額(平均賃金の10割)支払った場合と、6割支払った場合で違いはありますか。
A. 通常制度の基本は、休業手当の相当額に対して一定率を助成する仕組みです。事業者が支払った手当の額が大きいほど助成対象額も大きくなりますが、助成率や限度額は制度の定めによります。6割支給とする場合には前述の労使協定が必要なため、どちらの形で実施するかは労使で話し合った上で決めましょう。
Q. 会社側の意思に関係なく、従業員が休みたいと言ってきた場合は対象になりますか。
A. 雇用調整助成金は、経済上の理由により事業主が行う雇用調整に対する助成です。従業員個人の事情による休暇とは性質が異なります。事業活動の縮小を理由とした休業であることを、計画届や関連書類で説明できることが必要です。
Q. 電話やFAXではなく、電子申請での手続きはできますか。
A. 助成金関係の手続きは、電子申請システムによる提出が整備されてきています。ただし、利用できる様式や手続きの範囲は時期によって変わることがあります。計画届や支給申請を電子申請で行う場合も、事前に労働局で利用方法を確認しておくと確実です。
Q. 関連の助成金と混同しやすいのですが、どこを見れば区別できますか。
A. 雇用調整助成金は「業績悪化時の雇用維持」を目的とする点が特徴です。人材育成が中心の「人材開発支援助成金」や、職場環境整備が中心の「働き方改革推進支援助成金」などは目的が異なります。制度名と助成の対象となる行為(休業・教育訓練・出向か、人材育成か、環境整備か)を対応させて確認すれば区別できます。
Q. 休業手当はどのくらい支払えば対象になりますか。
A. 労働基準法上、事業主の都合による休業では平均賃金の6割以上を支払うのが原則です。助成金側の計算も、この水準を下回らない支払いが前提とされるのが一般的です。支払いの記録は必ず残してください。
Q. 支給申請の期限を過ぎてしまった場合はどうなりますか。
A. 期限を過ぎた申請は原則として受け付けられません。対象期間の終了後、期日内に必要書類をそろえて申請する必要があるため、実施の段階から書類を整理しておくことが大切です。具体的な期限は最新の要綱でご確認ください。
Q. 出向を実施した場合も対象になりますか。
A. 在籍出向など、雇用の維持を図る出向は対象になり得ます。ただし労使協定や計画届の扱いに特有の確認事項があるため、実施の前に窓口で手順を確認しておくのが安全です。
不正受給に注意
虚偽申請や不正受給が発覚した場合、助成金の返還・加算金の支払い・事業主の指定取消などの厳しい措置が取られます。